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神戸地方裁判所 昭和52年(手ワ)517号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

本件の「小切手用紙の振出人欄に、一行目に被告会社の本店所在地、二行目に商号、三行目に代表取締役の肩書及びその氏名がいずれもゴム印で顕出され、右氏名印の右端に接着して「正協船舶工業株式会社之印」との文字が一辺約2.4センチメートルの正方形の枠の中に顕出された印影(以下本件会社角判という。)が、その下辺を前記代表取締役氏名の印影のそれと揃えて存在しており、本件会社角判の上辺は前記本店所在地のゴム印の印影の上辺とほぼ一直線になつていること、甲第一号証の左端には契印として本件会社角判の右側約半分が顕出されていることがそれぞれ認められ、そして、これらの各印影が被告備付の印判を被告代表取締役が押捺したことにより顕出されたものであることは当事者間に争いがない。」争点は、右の「本件会社角判」の顕出が、小切手法六七条にいう捺印にあたるかどうかである。

【判旨】

小切手の振出に振出人の署名ないしは記名捺印が必要とされる根拠は、振出人に小切手上の責任を負担すべきことを自覚させるため、特に慎重な手続である署名ないしは記名捺印を要件とする主観的理由と、小切手取得者をして振出人が何人であるかを確知させるとともに、振出行為の偽造を防止するため振出人に固有の筆跡又は印影の小切手面への顕出を要件とする客観的理由にあると解される。右の客観的理由は、所持人による振出人の探索の便宜と、偽造小切手からの被偽造者の免責に根拠を置くものであるところ、本件事案では振出人が誰であるか、偽造されたものであるか否かは問題ではなく、被告作成の文書が完成された小切手にあたるか否かが問題であるから、客観的理由はそれほど重視する理由がなく、むしろ、一般に振出人が振出の意思で記名捺印をしたときにはその後になつて記名捺印の形式的瑕疵をとらえて責任を免れることを許すべきではないことを考慮すれば、主観的理由を重視すべきものである。

そうだとすると、本件事案においては、小切手法六七条にいう捺印とは、責任負担の自覚を抱かせるに充分な慎重さをもつて通常押印される印刷の押印をもつて足ると解すべきである。そして、本件会社角判の如き印影は、通常振出に伴いこれを厳正荘重ならしめる趣旨で代表取締役記名印のほぼ中央に顕出されるものであることは公知のところであり、更に、本件会社角判は代表取締役の印章による印影が通常存在する位置にあつて、さながらこれに代るものとして顕出されたかのような体裁をとつているうえ、被告会社の商号の記載と一体をなした代表者の記名に対する印章の印影とみることもできないではないから、他に特段の事情がない限り、本件会社角判の顕出も被告代表者において小切手上の責任を自覚して慎重にしたものと推認でき、したがつて、これをもつて小切手法六七条にいう捺印と解するのが相当である。

それ故、被告は本件小切手を記名捺印の方法により振出したものであり、原告に対してその振出人としての責任を負担すべきものといわなければならない。

(野田殷稔)

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